(1)水と縁を切る
石材の汚れ防止策には次の3つの方向があるのではなかろうか。
① | 水を石材に触れさせないようにする |
② | 水が作用しても石材に水が浸入しないようにする |
③ | 施工時、モルタルの水分などにカルシウム、鉄、真鍮のイオンや木材のあくなどが溶け出さないようにする |
①に対しては、石材の表面に、笠木などの水平部の塵壊を洗い流した水がかからないように、水切りの壁面からの出幅を大きくする。(30㎜以上はほしい)などの方法が採られる。あるいは、水平部分の勾配を、逆にして外壁に水が流れ落ちないようにする方法もある。これは内側に樋を設ける必要があって納まりが難しく、費用もかかるのであまり実用的ではないが、このような納まりで効果をあげた事例は多い。しかし、雨水が外壁を流れないようにすることは不可能であろう。汚れる部分を予測して、それがみっともないかたちにならないよう配慮することも必要である。これらは上に設計上の対策といえよう。
石材の裏面に水が回らないようにすることも大切だ。裏に回る水は、雨水ばかりでなく地下水であったり池の水、植栽の水、コンクリートの余剰水などであることが多い。階段などの場合、上部にかかった水が石材の裏面に回り、下方の踊り場や段に浸み出して濡れ色やエフロレッセンスになることもある。
雨水に対しては庇を設ける、笠木・窓台などは防水性のよい金属にするとか、地下水、池、植栽などがあれば防水をして石材の周辺に水が来ないようにする、屋外階段は石材の下に水抜きを設けて表面に出ないようにするなどの設計上の対策が考えられる。
また、施工時のコンクリート中の水も、石材を張り付けると水が裏から回るかたちになり、工期が短いときには問題となる。水が蒸発できるようにしておくのも有効である。
ところで、『建築、工事標準仕様書・同解 説JASS9張り石工事』(社)(日本建築学全刊)では、石材の裏面処理について 次のように述べている。「裏面処理材が使用される目的は、主として濡れ色および白華の防止であり、湿式工法で採用される」。これは明らかに②の対策で、石材裏面に水が作用しても浸入を防ぐための手段といえる。
しかし、②に対して、裏面処理以外の方法は一般に知られていないようである。③の対策としては、下地に露出した鉄部には、アルカリに強い錆止めをすること、石材を取り付ける金物には鉄や真鎌ではなくステンレス製のものを用いることなどが挙げられる。
白い大理石では裏込めモルタルの色が表面に出ることもあるので、白セメントと白い寒水砂をを用いるのが一般的である。木材や新聞紙を下地や裏込めモルタ ルのなかに入れないことも重要である。
(2)通気性のない裏面処理材の問題点
JASS9で取りトげられている裏面処理材は、主として防水材であり、エポキシ系や合成ゴム系のものである。これらの材料は通気性に乏しく、特に水分を 多く含んだ床コンクリートの上に裏面処理した石材を張ると、水分がなかなか蒸発せずに目地に集中する。そのため、石材の小口に防水材を塗布していないと、そこから石材中に水が浸入して、目地廻りだけ濡れ色になったり、エフロレッセンスが出たりする。具体的には、工期が短い場合、型枠がデッキプレートの場合、土間コンクリートの場合などで、床コンクリートの水分がなかなか抜けず、この現象が起きやすい。こうした場合、後に述べる浸透型吸水防止剤が有効ではないかと考える。
(3)裏面処理の難しさ
裏面処理に利用する材料、たとえばエポキシ樹脂は硬化するのに12時間程度かかる。また、石材を立てて塗るにしろ水平に寝かせて塗るにしろ、かなりの面積を必要とするし、エポキシ樹脂は流動性がよいので流れて表面を汚しかねない。しかも、現場で塗るのは難しいので、工場で塗るか、現場近くに作業場を見付けなくてはならない。先に述べたように、エポキシ樹脂は小口にも塗る必要がある。小口と表面とどこで塗り分けるのか、ペンキ屋さんでも難しい仕事である。また、丁寧に小□に塗ったものの、現場では小口に穴をあけることもあるし、切断することもあるその部分は無防備となるので現場補修塗りが必要だが、大変な作業である。
(4)浸透型吸水防止剤
今まで打放しコンクリートに用いられていたアルコキシシラン系の携水剤が 、小材にも適用できるよう改良されている。その1つ(商品名「ストーン.スピリッツ」)を試験したところ、次のような結果を得た。
・石材に含浸しやすい ・石材の色調、質感を大幅に変えない(もちろん、石種により多少の変化はある) ・石材の吸水率を大幅に小さくし、吸水防止効果が大きい ・石材に含浸させてもモルタルやシーリングの接着力に影響しない 、 |
石材の吸水率が大幅に改善されると、 たとえ裏面から水が回っても、あるいは雨に打たれても濡れ色になりにくく、エフロレッセンスも出にくい。表面に汚れた水が作用しても石材に染み込まないので汚れないなど、ここまでに述べた汚れ防止策が不完全でも、大きな効果が期待される。(「ドライ・ペネート工法」。図2)
図2 浸透型吸水防止剤による汚れの処置方法
浸透型暇水防止剤(ストーン・スピリッツ)とは?
主成分はシリコン化合物で、塗右すると石の細孔内に浸透して掻水層を形成する。これにより、水の浸入を防止すると同時に、石材内部に ある水分の蒸発を助ける。施工前の石材表面に塗り、濡れ色・エフロレッセンス・カビのほか、白大理石の黄変や接着剤攪拌不良による変色、吸水による錆などを防ぐ効果がある。裏面にも塗るとさらに効果大。また、施工後の塗布も可能。ただし、塗布前に石材をしっかり乾燥させておくことが必要。石が乾燥することにより、吸水防止剤の浸透が十分になるためである。
参考文献:建築知識9月号 特集:まるごと石辞典 |