【どんな石が使えるか】
まず初めに断っておくが、ここで説明する内壁とは、天井で各階ことに切られている、それほど高くない壁のことを指す。
内壁にはすべての石が使える。しかし、一口に内壁といっても用途によって条件はまちまちであり、ある程度使われる石は決まってくる。居間は大理石や砂岩系の柔らかみのある石が向いているし、浴室は外壁に条件が似ている。また、キッチンやトイレは衛生面から吸水率の高い石は避ける必要があるので、大理石や御影石が選択される。これらの特性を表1にまとめた。
表1 内壁に使える石材
石種 | エントランス | 居間 | 浴室 | キッチン | トイレ |
御影石 | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | ○ |
大理石 | ◎ | ◎ | △ | ○ | ◎ |
砂岩 | ◎ | ◎ | △ | △ | △ |
石英岩 | ◎ | △ | △ | △ | △ |
天然スレート | ◎ | △ | △ | △ | △ |
【湿式工法のチェックポイント】
次に工法のポイントについて解説したい。まず、湿式工法について、RC軀体を前提に解説する。
(1)使用できる石のモジュール
RC造に隈らず、湿式工法は避けた方がよいのだが、鉄平石のような乱張りでなおかつ薄い石は、施工単価や仕上がりの関係からどうしても在来工法であるモルタル張りになってしまう。せめて、あまり高所には採用しないようにしたい。単価さえ折り合えば、エポキシ系の接着剤による圧着張りの方が耐震性は高いと思われる。適用可能な石のモジュールは、重量からいえば薄い方がよく(20㎜厚以下)、大きさも1枚あたり0.1~0.2㎡くらいを目安にするとよい。
(2)剥落防止のポイント
モルタル材は、使用する石材によって砂:セメント比を3:1~4:1くらいで使う。エポキシ系接着剤はマニュアルを厳守(オープンタイム、下地と石裏の清掃、混合比、攪拌など)すれば問題ないが、すべての項目についてマニュアル通りにできないのが現実だ。その点を考慮しても、接着剤はモルタルの2倍くらい信頼性があると思う(あくまで筆者が変更などで剥がしたときの印象)。モルタルの信頼性は、使用する石種など各種条件でかなりバラツキがあって一概にはいえないが、あまり高いとはいえない。なお、引き金物を使用できるような厚み(20㎜以上)の石は湿式工法を使用すべきではないので、ここでは説明を省く。
(3)白華防止のポイント
白華防止のポイントは、モルタル中のセメントの割合をできるだけ低くすることである。裏面処理はそれなりの効果はあるが、施工単価がかなり高くなる。
(4)目地の考え方
湿式工法は乱張りの施工が多いので、モルタル目地で仕上げも刷毛目地か洗い目地のままとなる。なお木造、鉄骨造の場合も基本的な考え方はRC造と同じである。RC造と違うのは、下地をどうするかという1点だけである。木造や鉄骨造の下地は、単価も含めてブロック下地が最適である。設計段階で石張りの部位だけRC造にしておくとなお理想的だ。ラス下地やラスカット下地は、将来的に下地が腐ってしまう可能性が大きいことや外力を受けたときに下地が振動するので推薦できない。
【乾式工法のチェックポイント】
乾式工法についても、RC造軀体を前提に話を進める。
内壁に施工できる乾式工法は2種類あり、内壁の場合、空積工法が多用される(表2、図)。信頼性の面では金物工法の方が優れているのだが、施工単価、張り代と工期の面で空積工法が勝っている。また、金物工法ではどうしても目地が必要になるが、空積工法では必ずしも目地は必要ない。もちろん、空積工法であっても目地(シール目地)を設けた方が耐震性能は格段に向上する。個人的には安全性の観点から目地を設ける設けるべきだと思う。
表2 内壁に用いる工法の評価
下地 | 工法 | 下地との 相性 | 剥離性 | 耐震性 | コスト | 施工法 | 張り代 |
RC下地 | 乾式金物 | ◎ | ◎ | ◎ | △ | ○ | × |
乾式空積 | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ | △ | |
湿式工法 | × | △ | △ | × | × | △ | |
圧着工法 | ○ | ○ | △ | ◎ | ◎ | ◎ | |
木造下地 | 乾式金物 | × | △ | △ | × | × | × |
乾式空積 | × | △ | △ | × | △ | △ | |
湿式工法 | × | × | × | × | × | △ | |
圧着工法 | △ | △ | × | ○ | ◎ | ◎ | |
鉄骨下地 | 乾式金物 | ◎ | ◎ | ◎ | △ | ○ | × |
乾式空積 | ◎ | ◎ | ○ | ○ | ○ | △ | |
湿式工法 | × | × | × | × | × | △ | |
圧着工法 | △ | △ | × | ○ | ◎ | ◎ |
(1)適用可能なモジュール
乾式工法の場合、最低でも20㎜の石厚は必要だ。その上で0.5㎡/枚くらいの寸法が適当だと思う。この2点を考慮すると、おのずと使える石種が限られてくる。
(2)剥落防止のポイント
使用する金物は、外壁に準じれば問題ない。空積工法の場合、多くは下地の配筋や石引アンカーにステンレ線で引っ張って固定するが、ここで使用するステンレス線について少し説明をしたい。というのもステンレスの材質は実に複雑だからだ。一般にはSUS304とだけ書かれているが、石張りに使うSUS304のなかにはW1とW2、W1/2Hの3種類がある。公共工事でもSUS304の3.2㎜が指定される。JASS9(石工事)にも同じく指定されている。しかし3種類のうちどの材質を使うかは明記されていない。線径3.2㎜でもW1、W2は比較的軟らかく現場での加工が容易だが、線径3.2㎜のW1/2Hは非常に硬く現場での加工は非現実的だ。
公共工事などでSUS304の3.2㎜と指定されると施工業者は「線径3.2㎜」という指定を守るためW1、W2を使う。しかし、ほとんどの施工業者は、普段はW1/2Hの2.6㎜か2.8㎜を使用している。これらは、線径は満たしていないが、強度計算をすると十分な強度をもっている。さらに、実際に使用したときの信頼感もW2の線径3.2㎜よりW1/2Hの2.8㎜の方が、数値の差以上に高い。それぞれの線の引っ帳り強度を表3にまとめたので参考にしてほしい。
表3 ステンレス線の強度
種類 | 強度 |
W1のφ3.2 | 5305N |
W2のφ3.2 | 7315N |
W1/ 2Hのφ2.6 | 6633N |
W1/ 2Hのφ2.8 | 7693N |
(3)目地の考え方
前述したように、いかなる場合でも5~6㎜のシール目地をとるべきだ。見かけを大事にするか、安全性を大事にするかで決定してほしい。なお、木造に適用できる確実な工法はないため、設計段階からRCの軀体をつくるしかない。鉄骨造では縦にリップ溝形鋼を流したうえで横にリップ溝形鋼を取り付けるといい。ボルトでの取り付けが理想だ。こうすればリップ溝形鋼用の取付け金物が使える。リップ溝形鋼用の取付け金物には、大きく分けて荷重受けタイプ(乾式金物工法)と積み上げタイプ(乾式空積工法)の2種類がある。なお、選択基準はRC造のときと同じである。(表2、図)
図 内壁に使われる工法(乾式工法)
①RC下地乾式空積工法(下地配筋) ②RC下地乾式空積工法(石引アンカー)
③鉄骨下地乾式空積工法 ④鉄骨下地乾式金物工法
参考文献:建築知識9月号 特集:まるごと石辞典 |