日本建築は、一般的には木の文化と理解される向きが多いですが、城郭や神社仏閣、各種の和風建築においては、礎石、束石、石垣、石畳等、石材も多く使われており、独自の文化を形成してきました。明治以降に西洋の建築様式が導入されると、内外壁の仕上げに石材が使用されるようになり、加工・施工の技術向上や安全性の確保が産業として求められるようになりました。一方、鉱物資源の乏しい国で如何に原材料を安定確保して産業として成長可能か、試行錯誤を繰り返しながら今日に至っています。90年代前半にバブル経済崩壊があり、当業界は、それまでの素材を輸入し国内加工する方法から、主に海外に製品加工を委託して輸入する業態への構造改革を求められ、各社試行錯誤を重ねながら乗り越えてまいりました。
当会の前身である全国石材工業会は1953年に創立されました。以来、建築石材業に従事する企業の業界団体として、大理石、花崗岩を中心とした各種建築石材の加工及び施工について業界の振興や普及を目指し、併せて会員相互の親睦交流を図りながら進んでまいりました。
我が国は地震の多発国として、建築の耐震性安全性の確保は避けて通れない大きな課題です。1995年1月に発生しました阪神・淡路大震災後には、会として被災地の石材破損状況を調査し、当会独自の「外壁・内壁の乾式石張り構法設計施工指針」として刊行しました。その後2011年3月に東日本大震災が発生しましたが、建築石材について指針に則る施工の信頼性は確認できたと自負しております。
業界の今後の課題としては、施工職人の高齢化・人手不足が深刻になっています。国をあげての取り組みである建設業キャリアアップシステムも、現場職の待遇改善や業界の活性化を目指すものではありますが、一方、高齢で零細の職人が要求水準についていけず離職するきっかけとなる要素もあり、減少を食い止めるためにも、業界として職人を守り育てる取り組みが求められるところです。
昨年5月より会長に就任させていただき、早いもので1年がたちました。建築石材に関わる者の集う場として、会員内外を問わず石材業界を横断的に交流や連携に努めて、石の魅力発信と、石に関わる仕事の地位向上や課題解決に関わっていく所存です。会員各位におかれましては、未加入のお知り合いの会社があれば、是非ご紹介いただきたくお願いします。
年初からの新型コロナウイルス感染の世界的流行は、正に想定外の出来事で大きな衝撃でした。収束後も仕事のやり方や日常に渡り、価値観やライフスタイルを見直す動きがあります。石材という素材が、機能として装飾として今後も魅力をもって世に求められ続けるか、その需要に対してプロフェッショナルとして必要とされ役に立つ存在でいられるか、向き合い見つめ直すことで業界としての未来があると思います。
石は唯一無二の美しく希少でかけがえのない天然の素材です。建築石材に関わる仕事をされて当会の活動に関心を持たれた方、建築石材に興味や質問をお持ちの皆さん、ご意見ご質問をお待ちしています。どうぞお気軽にお問合せください。全国建築石材工業会を宜しくお願い申し上げます。
2020年6月
全国建築石材工業会 第10代会長 矢橋達郎